司会者「こんな事は前代未聞です!正解者が出ないままついに最終問題へと突入した
全国同姓クイズ王選手権、佐藤編」
司会者「いや~まさかこんな展開になるなんて誰が予想したでしょうか。
だがしかし、逆にここで正解すればあまりにも劇的でドラマティックだと思いませんか、佐藤さん」
佐藤「そうですね。ドラマティックでドラスティックな自分になってみたい。そんな心境です。」
司会者「ちょっと何言ってるかよく分かりませんが是非とも決めてもらいましょう!」
司会者「それでは第189,991問!」
ジャジャン!!!
司会者「これは何をしている所でしょうか。」

ピンポンッ
司会者「はい!佐藤さんどうぞ」
佐藤「いけばな」
司会者「ちげーよ!」
ピンポンッ
司会者「わずかの差で佐藤さんです。どうぞ!」
佐藤「生花の活け造り」
司会者「お前本当に当てる気あんのか!」
ピンポンッ
司会者「おっとここで佐藤さんにランプがついた!」
司会者「では決めちゃって下さい。どうぞ!」
佐藤「カリフラワーの天ぷら」
司会者「そうそうカリフラワーって茹でるのが一般的だけど
日本料理風に天ぷらにして食べるのもまた格別だよねーってコラ!
お前ええかげんにせなホンマにキャーン言わすぞ。このボケ・カス・アホ」
カンカンカンカン
司会者「あぁ~最終問題も無情なゴングの音が響いてしまいましたぁ~。」
司会者「おい佐藤、今から正解言うからしっかりメモ取って
その足りない頭によく叩きこんでおけよ!」
司会者「それでは最後の正解発表です。」
司会者「一旦は留置場に入れられ、そのおかしな行動と言動を疑われ
薬物検査を受けたり厳しい尋問をされていた田中さんですが、
薬物検査の結果が陰性だった事や、時間が経つにつれて正気を取り戻し、
自分の身に起きた家族問題についての一切を泣きながら説明した結果、
その悲惨な事情を理解した警察官から同情されると共にその後無事釈放されたまではいいが、
何故か警察署を出た途端、急に目の前に止まった黒のワンボックスに無理やり乗せられ、
すぐに中で目隠しと手足を拘束されとてつもないパニック状態に陥っているにも係らず車内の人から
“大丈夫だから安心して”と全く根拠のない大丈夫を連呼され続け、
どれくらい時間が経過したか、ふいに車が止まり車内の人から
“今のあなたは心身ともにとても疲れています。
ここで一度人生立ち止まって自分を見つめ直す為の休息が必要なのです。
暫くの間ここで何も考えず静かにゆっくりと私達と共に暮らしていきましょう。“
と明らかに弱っている人の心に付け込む洗脳宗教団体のカモにされかけている田中さんだが、
そんな事を考えられるだけの冷静な判断能力もなく、
おもむろに目隠しを外され目の前に現れた光景に対し思わず
”ヘブン”
と呟き見事に教団の術中に嵌った瞬間でした。」
司会者「・・・」
司会者「おい、まだ気付かないのか?」
佐藤「?」
司会者「これは全部お前の事だぞ佐藤!いや田中!」
司会者「今回のクイズは全て田中として歩んできたお前の人生そのものだ!」
佐藤(田中)「えっ?」
司会者(カウンセラー)「思い出せ田中!5年前に突如失踪したお前の行方を
家族と警察がずっと探してたんだよ。
そしたら最近になってある教団が事件を起こして、
逮捕された奴の証言からお前の特徴と酷似した奴がいる事がわかり、
よくよく調べを進めるとその教団の出家信者の中に現在は佐藤と名前を変えて生活している
お前がいるという事が分かったんだ。
けど、教団のガードが堅くてなかなかお前に接触する事が出来なかった。
だが、毎回このクイズ大会に教団関係者が出場していることが判明して
今回はお前が参加するという情報を聞きつけこの機を逃すまいと
洗脳を解くために我々が潜入したんだ」
佐藤(田中)「えっ・ちょっ・・・よく意味がわからないなぁ」
司会者(カウンセラー)「じゃぁ観客席の最前列を見てみろよ!これでもまだわからないのか?」
そこには涙を流しながら心配そうに田中を見つめる母子の姿
元嫁(京子)「あなた、ごめんね。。。」
娘(ゆかり)「パパお帰り!一緒に帰ろ」
頭の中がチカチカし始める。
田中(佐藤)「うぅ・・・・・頭が・・・痛い」
記憶の断片が少しづつ浮かび上がる
田中(佐藤)「京・・・・・子・・・・ゆかり・・・・・」
目の前が真っ白に光り出す。
田中(佐藤)「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~」
泣き叫ぶ田中、それと同時に堰を切ったように
記憶の波が洪水のように一気に溢れ出す。
司会者(カウンセラー)「あとの事は俺達に任せておけ!」
そう力強く言ったカウンセラーの言葉はなおも泣き叫び続ける田中の心に確かな安堵感を与えた。
そうしてクイズ大会の幕が閉じたのである。