春休み特別企画!
短期集中連載妄想物語第一弾
「夢」
最近夢を見る事がめっきり減った。
それは眠りの中で見る夢もそうだが現実世界での夢もまた同じくそうだ。
眠りの中での夢については日々の生活に疲れて夢を見てる暇もないのだろうか。
それとも見ているのだろうけど起きたら憶えていないだけなのか。
現実世界での夢については見ないのではなく、見れない、いや、あえて見ないようにしているのだ。
私は東向島の築35年2階建てアパートの2階角部屋6畳一間で彼氏と同居している。
昨日も錦糸町の小さなスナックでの仕事を終えて帰宅したのは夜中の3時だった。
いつもよりお店で深酒をしてしまい、着替えるのも面倒くさく、
顔を洗う気力もなかった私はそのまま布団になだれ込んだ。
そして目覚めたというか次に意識がはっきりしたのは既に正午に近い時間だった。
最悪の目覚めと、変わり映えのしない部屋の風景と、どうしよもない喉の渇き。
とりあえず布団から這い出した私は一目散に冷蔵庫へと向かいたどり着くやいなや
扉を力任せに開けると一番手前にあった飲みかけのミネラルウォーターのキャップを開け
一気に飲み干した。
それでも相変わらず気持ち悪さは残っていたが、とりあえず喉の渇きだけは満たす事ができた。
その後、いつもより熱めのシャワーを長めに浴びて、さっぱりとした私は、
気持ち悪さも多少和らぎ頭も徐々にすっきりしてきた。
しかし、すっきりしてくるにつれて昨日の店での会話が思い出され不快な思いがこみ上げてくる。
いつもだったら軽く流すような何てことない会話なのだが昨日に限ってはそうする事が出来なかった。
同僚A「なぁなぁ聞いて!私新しく彼氏できてん。」
私「へぇ~そうなんだ良かったね」
・・・(どうでもいい。)
同僚A「そうやねん。しかも総合商社に勤めるエリートサラリーマンやねんで」
「うち、昔からめっちゃ男運なかってんけど今回の彼氏は全然ちゃうねん。」
「これからは彼の為に頑張るし、彼の為にも、もうこの仕事も辞めよう思うてんねん。」
よほど嬉しかったのか、喜びの感情を爆発させて一気にまくし立てる彼女の話は
チクチクと私の胸に針をさすようなそんな少し嫌な気分になったが、まだどっか上の空で聞けていた。
だが、そのあとの彼女の言葉が私を一気に現実に引き戻してきたと同時に
ノミのような太くて長い鋭利な物で一気に私の心臓を突き刺したのだ。
同僚A「そういえばアンタも彼氏おったよな?何してる人なん?」
・・・(あぁやっぱりその話か。)
私「えっ。あぁ~私の彼氏!?いいじゃん別に。総合商社とかに比べたら全然大した事ないよ。」
・・・(これ以上聞くなよ。)
同僚A「ええやん。そない難いこと言わんと教えてな」
笑顔で聞いてくる彼女。悪気はないのだろう多分。
自分には釣り合わないぐらいの大物と付き合えたもんだから勝ち誇りたいだけだ。
けどそれがマジでウザい。
私「なんか私もよく分かんないけど確かNPOで色々な夢を持っている人の支援をしてるとか言ってたかなぁ」
・・・(もちろん嘘。)
同僚A「ふぅ~ん。そうなんや。よう分からんけど人の手助けって凄いんちゃう。
まっお互い幸せになろうな!ほんなら今日も仕事頑張ろう」
私の要領を得ない話に明らかに興味を失った彼女はそういって足早に立ち去った。
ただ相変わらず機嫌よく鼻歌など歌いながら。
確かに私には付き合って6年になろうかという彼氏がいる。
そして私の彼氏は現在仕事をしていない。
それも、もう5年になろうとしている。
なぜこんな事になったのだろう。
なぜこんな無職の男と一緒にいるのだろう。
私の人生はこんなはずじゃなかった。
こんな自問自答を毎日繰り返していたが、近頃では考えることにも疲れたので何も考えずにただ、
その日その日を惰性で過ごしていたのだ。
彼と出会った当初はそうではなかった。
続く。